「心の雫」短歌8首 vol.10

拝啓 

 “暑さ寒さも彼岸まで”とはよく言ったもので今年も全くその通りになりました。 
彼岸を過ぎますと、一気に秋が駆け抜けています。
夏の薄いワンピースから冬のポロシャツにと切り替わりました。
それでも寒さを感じています。お元気でしょうか。 

 
 10月に入りまして奇跡のような出来事がありました。
刑務所事情に詳しい方はご存知かと思いますが 、4月と10月は私達の進級の月です。
昔は1級、2級の級でしたが、現在は類となって1類、2類の呼び方です。
その類の変更の月です。
私は7月に懲罰がありましたので、来年の4月まで進級はありえない状況です。
しかし、他の人達は上がるのか、下がるのか、キープなのか、話題の嵐が吹き荒れていました。 


 10月3日当日になりました。順次呼ばれ、私の番になりました。
当然、今と同じで、これ以上下がることはないけど、上がることもないと思っていました。
ところが、4類から3類へと、上がったのです。
聞いたときはめまいがして間違いだろうと思いました。
バッジの変更も震える手でやっと付け替えをしました。
部屋の番手も4名中の4番手になる予定が1番手となる。大パニックです。
あれから1週間、もうバッジが間違いだったとは誰も言いに来ず、やっぱり3類なのか、と少しずつ実感しています。 

 
 こんな奇跡には何か事情があるのでしょうが、これからの6か月間、土の中で冬眠するつもりでしたが恐る恐る穴から首を出して周囲を見回しています。
この3か月間、現在の部屋でイジメ問題に耐え続けてきましたが、その部屋もあと10日くらいで解散です。
現在は起きている時は耳栓をして眠るときにははずす、という生活です。
私に対する暴言を聞きたくないための対処ですが、このスタイルも終わりになります。
来月はきっと穏やかな報告ができると思います。 

 この3か月間、苦しい時も多かったのですが、良いこともありました。
このコーナーを読んでくれた方と文通を始め、本を送って頂きました。
その本を含め、官の本、購入した本を朝から晩まで読んでいました。
途中の1か月間は、私以外の人にイジメが飛び、夜はトランプばかりの時もありました。
その人はイジメに耐えられなくて、舎房拒否をし(名目は違うかもわかりませんが)懲罰となりました。
そこでまた私にイジメのほこ先が戻ってきたのです。
あと少し、あと少しと思いつつ耳栓をし、自分の心を守りつつ過ごしていました。
そういう中での3類への進級と1番手への復旧です。
部屋も私も大混乱ですが私にとっては奇跡の贈り物です。 

 
 話は変わりますが、おすすめの本のことです。
今年の夏文庫になりました、東野圭吾『希望の糸』に感動しました。
喫茶店を経営している女主人が殺された、と書きますと、ああ、殺人事件ね、犯人を探すミステリー物でしょ、と読者は思ってしまいます。
しかし、ここが東野ワールドです。 

加賀恭一郎を登場させてはいますが、加賀のいとこの刑事を主役に据えています。
捜査中にいとこの私生活も動いていくのですが、想像もしなかった犯人像とその周辺の複雑さ、そして、刑事の家庭模様。
ラストシーンでは、涙がこぼれてしまいました。
感動は一瞬でいい。長くなくても十分読者の心を打つものだと感じさせられました。
ぜひ読んで頂きたいと思いました。 

※希望の糸 東野圭吾 講談社文庫 880円+税 

 
 もう一冊のおすすめです。矢口敦子さんの『償い』です。
この本も受刑者の中では知られている本で読んだ方も多いかもわかりません。
私の施設にもあり、以前一度読みました。
しかし、今回文通相手の方が送ってくださり、もう一度読む機会を得ました。 

 脳外科の医師がホームレスになる。それだけでもう読んでみたくなる本です。
そのホームレスが偶然火災現場に通りかかり通報する。
疑いは、そのホームレスにかけられる。
しかし、弱者を狙う連続殺人が起き始める。
ホームレスになっていた、医師の日高は、刑事の依頼で事件を調べ始める。
図書館の中の新聞縮刷版から、ホームレス村の住人から、聞き込みなど足で稼ぐ情報。
そして命まで狙われる。 

 罪を犯した者は生きていていいのだろうか、と悩むときがある。
しかしこの本では、「生きることだ、逝った者達の重さを抱えてよろめきながらも……」と明確に書かれている。 

 私自身、自分が生きることに疑問を感じている。
本当に生きていていいのだろうかと悩む。しかし答えはでない。
今この中にいる限り、正しい選択はできないのだ。
これ以上迷惑をかけない、という原点を見据えることしかない。
生きること償うこと。難しいが自分自身で命を断つことが答えではないと思う。
罪を犯したあとの償いについて思い悩むことは多い。
それを矢口さんはスパッと答えを明確にしている。
この結論に至るまでの主人公の心の葛藤を読み解いてほしい。何度でも読める本です。 

 ※償い 矢口敦子 幻冬舎文庫 648円+税 


受刑者にとって本は生きる糧ともなります。もしも余裕があり、私の元に寄付して頂ける本がありましたら送ってくださいませんか。
本名でもいいのですが、ほんにかえる事務局の名前で送ってくださっても、たぶん届くと思います。
また、施設の制限があり、一日に同じ人の名前で入るのは6冊までです。 

 住所等は、事務局に問い合わせてください。 

 

 リクエスト本のタイトルです。(文庫本でお願いします。) 

 ①検察側の罪人 上下 雫井修介 文春文庫 

 ②影踏み       横山英夫 祥伝文庫   

 ③アサシン      新藤冬樹 角川文庫 

 ④99%の誘拐     岡島二人 徳間文庫 

 ⑤株価暴落      池井戸潤 文春文庫 

 ⑥侠飯        福澤徹三   〃 

 ⑦ 〃 2~6       〃     〃 

 その他、外国人作家の本 

ローレンス・ブロック、キャサリン・コールター、JTエリソン、シェリーコレール などです。 

 

 短歌です。 

 ①三か月運動場に出ぬ日々の続きてまぶし秋の青空 

 ②ロシアにて召喚状の発布さる赤紙なるか昭和の日本 

 ③拷問の部屋に哀しく転がりぬカップラーメン生者の証 

 ④パン食が半分になるメニュー表戦禍の波は塀の中まで 

 ⑤団栗が数個落ちいるドアの外理由(わけ)は知らねど秋の来訪 

 ⑥空中に浮かぶウィルス流れ去る豪雨のあとの空の輝やき 

 ⑦傷つけて傷つけられて生きている獄のひと日は言葉の嵐 

 ⑧油断してスピード違反をしたような小さな罪が激しく責める 

 

2022年10月15日 

 

A289さんの投稿

 

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