前略 塀の中から・知らない事
世の中には知らない事が多数ある。
他人の事はおろか、自分の事さえも知らない事がある。インターネットの普及で色々な事が知れる様になり、AIに質問すれば何でも教えてくれる昨今。
でも受刑者の僕は知らない事ばかりである。
「僕は知らない、自分が世間一般でいう“おじさん”という事を」
20代で捕った僕も気が付けば40代に。
しかし年齢だけが増えていくだけで、身体の衰えや見た目の老化を感じていない。
それは体力をあまり使うことがなく、鏡を見る機会が少ない為自覚がないのであろう。
捕ってから時間だけが経過し精神年齢は20代のまま、その為か未だに若い女性と遊べると思っているところがあり、ナンパしても成功すると思っている節もある。 所内では、社会同様高齢化が進み、40代の僕でも若者の部類に入り重宝される。
その為社会の40代が許されない事でも「若気の至り」という事で大目に見てもらえる。
「僕は知らない、家族がどんなに辛い思いをしてきたのかを」
僕は地元で事件を起こした。多分地元では知らない人はいないと思う。
きっと家族は、周囲から冷たい目で見られ、後ろ指を指され、誹謗中傷を受けただろう。
それなのに逮捕された当の本人は世間の目に晒される事もなく、批判の声も聞こえない要塞に守られ、飯を食い、風呂にも入り、布団でぐっすり眠っていた。 逮捕され初めて会った母はやつれていたが、徒々泣いて謝る私に、「やってしまったことだから」と言っただけで、自分がどんな辛い思いをしていても、一切私を責めなかった。
拘置所に移送となっても2時間もかけて面会に来てくれ、刑務所に移送されても4時間かけて面会に来てくれた。
面会に来てくれた時、母は本を差し入れてくれる。
差し入れ票には母の氏名、住所、電話番号が母の字で書かれているが、これを見た時初めて、家の電話番号が変っている事を知った。
それが、家族が私の事でどんな仕打ちを受けてきたのかを物語っている。
「僕は知らない、逮捕され犯罪者となった自分の社会での姿を」
当然、罪を犯し逮捕される前までは、社会人として普通に生活をし、善良な市民として暮らしていた。
しかし逮捕され犯罪者になってからは、まだ一度も塀の外に出ていない。
だから犯罪者となった今、周りの人が、友人が、知り合いがどんな態度で接してくれるのか知らない。
又、犯罪者の自分にどれくらいの信用があるのか、その信用を得られるかも未知数である。
そのくせ、今まで社会で普通に生活してきた事や、それなりに高給で役職にも就いてた事などの過去の栄光にすがり、ちっぽけなプライドが捨てきれずに、もう一度昔のような生活が出来ると思ってしまう。
「僕は知らない、元受刑者に社会は厳しいという事を」
未だに再犯率が高いのは、社会の厳しさ、現実の厳しさに耐えられず、再び罪を犯してしまうからであると聞いた事がある。
刑務所では言われた事だけをしてればいい。飯も時間になれば与えられ、洗濯だって出せば洗ってくれる。
何もしなくても部屋を与えられ、布団で眠れ、風呂にも入れる。しかし社会に出ればそうはいかない。
自分で生きていかなければならないし、生活をしていかなければならない。
今は、生かされて、生活をさせてもらっている。ぬるま湯に浸っていると言っても過言ではない。
そんな生活を何十年もしていたら、自立が出来なくなるのではないかと不安にもなる。
実際社会復帰をした時、僕は何を思うのだろう。社会の厳しさを目の当たりにし自分の弱さに打ちのめされたら、心が折れてしまうのだろうか。
そうならぬよう、今から自分の弱さを認め、厳しい社会で生きていく術を考え身に付ける。
社会に受け入れてもらうにはどうすれば良いか、元受刑者の僕にしか出来ない事とは・・・
「でも僕は知っている、残された人生、どう歩んでいくかを」
僕が歩む道は贖罪の道、一本。
世の為、人の為に自分が出来る事は全力でやりたい。
困っている人を助け、悲しむ人を励まし、寄り添い、人に思い遣りを持って接したい。
今まで自分本位に生きてきた半世を、これからは自分以上に人を愛し、他人に尽くし、過去の失敗、後悔を繰り返さぬよう怒りを押さえ、穏やかに、二度と人を傷付けぬよう生きていきます。 今は知らない事ばかりです。
今後、色々な事を知っていく中で現実に打ちのめされても、贖罪の道だけは逸れず、自分の足で立ち、自分の足で歩んで行きます。
その為にも今、日々、反省し、感謝し、努力し、精進していかねばいけないことを「僕はよーく知っている」。
A23さんの投稿
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世の中には知らない事が多数ある。 他人の事はおろか、自分の事さえも知らない事がある。インターネットの普及で色々な事が知れる様になり、AIに質問すれば何でも教えてくれる昨今。 でも受刑者の僕は知らな・・