刑務所より、夏のぼやき・1

先週まで連日続いた熱帯夜も落ち着き梅雨らしい気温になりいくらか過ごしやすくなりました。 
自分の理想とする人格の人間が刑務所ではあまり居無いので真似が出来ず本を読み勉強をしています。 
私の尊敬する偉人に田中角栄がいます。 
この人の人間力、コミュニケーション能力を見習いたいと常に思っています。
今回無償本のリストに田中角栄の本がありリクエストさせて頂き差し入れがあった時は嬉しさのあまりすぐ読んでしまいました。 

田中角栄の言葉はシンプルですが、すごく心に響きます。 
「嘘を付くな、すぐバレる、調子良いことを言うな、後が続かない」 
「借りた金は忘れるな、貸した金はすぐ忘れろ」 
「出来る事はやる、出来ない事はやれない、やらないでも責任はとる」 
こんな数々の言葉に田中氏の人間性が表れてます。 

 
さて当所では今年2回目の食中毒騒ぎの真っ最中です。
2月に発生した騒ぎ同様にトイレには長蛇の列が。幸い私は大丈夫でした。(2月の時も大丈夫でした) 

今回は職員も同じ症状があったという事で、今だ原因の告知はありませんが今回は対応が早く、7/9に発生し9日の夕飯から非常食となり12日の朝から外部の仕出し弁当となりました。2月の食中毒騒ぎの時は仕出し弁当になるまで6日も非常食でした。
この非常食というのが結構きつくカロリーは高いのですが、少なくてすぐ腹が減るのです。 

私のような刑務作業の中でもハードな作業しているので足りません。
普段でもA食と言って普通の人より多い飯が配食されているのですが、非常食では皆同じ量で全体的に炊場が作る飯より少くないです。
でも非常食に文句ばかりではありません。今回は新商品が出されました。 

“ひだまりパン(メープル)”この非常食は普段食べているパンよりおいしかったです。 
それにやはり外の弁当には感動が止まりません。 
朝食におにぎりが3つ(おかか、日高こんぶ、梅干し)とひじき煮が出されました。 
梅干しなんて何年振りでしょう。2021年にクラスターが発生した時に炊場が止まって弁当になった時以来でしょうか。
実は私、社会に居た時は梅干しが食べられなかったのですが、捕まって梅干しが出されて食べないといけないと思うようになり、食べてみると以外と食べれる事に気付きその後少し好きになりました。
しかしその後、全く出なくなり今回の様に久し振りに食する事が出来た喜びは大きいです。 

ここでは社会で普段食べれるものが出なかったり、数年に1度とか年に1度、数ヶ月に1度などが普通です。
そのたびに思うのが普通、当たり前こそ有難い事なのだと言う事。私の友人が良く言う「日々感謝」と言う意味がこういう事なのかとも思いました。 
有る事が難しいからこそ有難いなのだと。この感覚を社会に出ても忘れないようにしたいし、この事を忘れると傲慢になるのかもしれませんね。 

私は受刑生活に対して不満、文句ばかりを言っていた過去の自分に、こんな小さな幸せを見つけられるようになった事を自慢したい。
社会にいる人にも普段の日常が当たり前こそが幸せという事を感じてもらいたいと思いました。 


当所では先月、収容者が職員を襲うという事案があったらしいです。
今年始めに収容者の事を「さん」付けで呼ぶようになりましたが、このような事案が起ったという事は、何故でしょうか。
収容者に問題があったのか、職員に問題があったのか分かりませんが、収容者と職員の間に信頼関係が築けないのが問題かと思います。 

私の感覚的に収容者に問題があったと感じます。 
というのも私が接してる限り、当所の職員さんはとてもコミュニケーション能力が高く、現場の職員さんは我々に真摯に向き合ってくれてますし人として付き合ってくれてます。私は「さん」付けで呼ぶ事よりもしっかりしたコミュニケーションを取る方が我々には必要かと思ってます。 

そもそも受刑者と刑務官では立場が違います。そこを勘違いした受刑者が自分が犯した罪を棚に上げて何かと言えばすぐ「人権侵害だ」と騒ぎ立てる。
自分は人の人権を侵害して刑務所にいるのに、自分の義務も果たさず権利は主張するのはおかしくないですか。
他の施設では陰湿な事をする刑務官がいるようで理不尽な仕打ちを受けてる受刑者が居る事を“かえるのうた”で知るのですが、幸いな事に当所ではそのような刑務官はあまり居無いようです。 

刑務官も人間です。こちらの態度次第で態度も変わると思います。
攻撃的になれば攻撃的になるし素直に、真摯に向き合えば、しっかり向き合ってくれると思います。
しかし刑務官は国家公務員で組織の人間ですし現場の職員も、上の決定には従わざる得ない。
そこを我々が受け入れ理解する事も良い人間関係を築く一つかと思います。
私は刑務官との人間関係が更生に大きな影響与えると思ってます。私達も人間ですから情は湧くし義理も果たそうとする。
このオヤジ(刑務官)には世話になってると思えば、迷惑を掛けないようにと悪い事もしないようにするとか、感情を押さえるのもできる。
時に理不尽な処分を受けた時も「納得してくれ」と言われれば「オヤジが言うなら」と納得できる。
一番大事なのは信頼関係ですよ。
ただ、幹部は収容者と職員のコミュニケーションの取り方にとても慎重のようで、必要以上の会話をする必要はないと考えてるみたいです。 


先日、NHKの日曜討論で滋賀で保護司が殺害された事件を受け、保護司と保護観察者のあり方が話し合われてるのを観ましたが、どれも的外れのように思いました。机上の空論と申しますか、保護司を給料制にするとか、私は保護司と保護観察者との間に信頼関係が築けてなく、加害者の方は少なくとも保護司さんを良い風に思ってなかったと言う事です。
今回のケースとは別ですが受刑者は仮釈放になった時点から保護司さんと初めて会いそこから人間関係、信頼関係をスタートさせるのですが信頼関係が築けていない中、色々と厳しい指導されるのは少なからず抵抗があると思います。
我々は受刑中から担当保護司が決まっているのですが、中には受刑中からコミュニケーションを取る保護司さんもおられるのですが、殆どの方がコミュニケーションを取ろうとしません。私はそれが不思議でなりません。 

今からコミュニケーションをしっかり取ることで互いに理解し合え、信頼関係も築けてスムーズかつ円滑に社会復帰が出来ると思います。
先日の日曜討論でもそうですが当事者の我々の意見を聞こうとはせず、改善ができるのでしょうか。
刑務所の処遇もそうです。現場を知らない政治家や法務省、官僚いくら話合っても改善、改革にはつながりませよ。
今の政治は、民間の声、当事者の声を聞かない、ダメ政治です。 


でも私は数年振りの梅干しに幸せです。これから弁当生活が始まりますが今からどんなメニューかとても楽しみです。
場合によっては数年振りに食するものも出るかもしれません。もしかして捕って以来の物も出るかもしれないと思うと今からわくわくします。 

ちなみに余談ですが、無期囚の30年以上もいるベテラン受刑者は、おにぎりの開封方法を知らず、職員にどうやって開けるのか聞いたそうです。
これが本当の浦島太郎です。 

今の若者は、公衆電話の使い方を全く知らないそうですがベテラン受刑者は、スマホを使い方はおろか、実物を見たこと(TVとかでは見てる)がありません。それはタイムマシ-ンで過去から来たようなもので、社会で生活するには長い時間が必要ですね。 

これから夏も本番になります。今年の夏は酷暑が予想されます。熱中症にはお気を付けてどうかご自愛下さい。
私はこの夏は読書に熱中します。 


2024年7月13日 

 

A23さんの投稿

 

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