転生する前は『受刑者』だった件 Vol.8 - 考察：チンコロ-

こんにちは。あるいはこんばんも、みなさん。

突然だが、みなさんは『チンコロ』という言葉をご存じだろうか？　
同じ異世界のみなさんであれば知っていると思うが、外の世界の方々にとってはあまり馴染みのないワードなのではないかと思う。
もちろん、残念だが下ネタではない。

異世界に転生すると、そのうちいくつかの固有魔法が使えるようになる。チンコロもそのうちの一つだ。
魔法使いに転生すると『ホイミ』とか使えるようになるのと同じと思ってくれていい（？）

僕も転生したばかりの頃は「え？チ〇コがどうしたって？」などと思ったものだが、チンコロとはいわゆる”告げ口”みたいなものだ。
なぜチンコロというのかは、昔”チンチロ”で賭け事をしていたことを”コロっと”漏らしてしまう人がいたからとか、それこそ男性同士の”大人のお遊戯”からきているとか諸説あるが、正確なところは誰も知らない。
だが、いつからかこの世界では、告げ口や密告などといった行為のことを『チンコロ』、それをする者を『チンコロ野郎』などと言う。

告げ口や密告などと言えばあまり良いイメージはないように、チンコロも良いものではない。
この世界に転生するとそのうち誰もが覚えるものだが、それは暗黙の了解として禁術魔法とされ、それを行使する者は犯罪者のごとく忌み嫌われるとされる（みんな大体犯罪者なのだが）。
なので、某魔法学校よろしく、禁術魔法は禁術魔法として知った上で使わないことが重要なのだ。

…とは言うものの、その禁術魔法、実際にはわりかし多用されている。
世の中、どこの世界に行っても人の足を引っぱって自分の評価を上げたり、そこに快感や正義感を見いだす人はたくさんいる。
その手段として告げ口や密告などといった行為が存在するが、それが『チンコロ』などという不思議な名が付けられ禁術魔法として広く認識され多用もされているのには、この世界の特殊性が深く関係していると思われる。

第一に、以前も話したように、この世界は無数の鳥カゴルールでできている。
そのルールの中というのは狭く息苦しく、自身の翼を錆びつかせる。
そのため、自らの権利やアイデンティティーを守るため、カゴの中で窒息してしまわないために、影ながら羽をバタつかせている人が割とたくさんいるのだ。学生時代、やれ髪を染めるなズボンを下げるな不純異性交友をするななどといったブラック校則に、納得ができずに抗っていたものと同じかもしれない。
だが、学生時代のブラック校則と違うのは、そのささいな抵抗がひとたびご主人様たちに露見すれば、まるで犯罪でも犯したかのごとく厳罰に処されることだ（みんな（以下略））。
だから、嫌いなヤツや気に入らないヤツがいたら、軽く足元をすくってやるだけで簡単に相手を落とし入れたり排除することもできてしまうのだ。

さすが受刑者様！俺たちにはできないことも平然とやってのける！そこに（以下略）…とか思うかもしれないが、環境的に仕方がない部分もあるのかと個人的には思ってもいる。
ケームショでは仕事場や仕事内容はもちろん、そこで一緒に働く人や一緒の部屋で生活する人、休憩中に会話できる相手まで、ほとんどのことは自分で選択することはできない。
それらで一緒になる人たちが、運良くみんな自分と気の合う人たちばかりなら何も問題はないだろうが、ただでさえクセの強い猛者たちが集結している世界だ。ちょっと頭のイカレた人と生活しなくてはならない場合もあるだろうし、そうした自身の平穏をかき乱す異分子には何とか退場いただきたい、と思う気持ちもわかったりする。

環境を変えられなければ自分を変えるしかないじゃないか、なんて意見もあると思うが、そんなマッチョな考えを忠実に実行できるような人であれば、そもそもこんな世界に来ることなんてなかったんじゃないだろうか。
なので結果として、自分を変えられないから変えられる環境を変えるしかない、その理論で虎視眈々とチンコロのタネを拾い集めて刈り取っていく人がいるのだと思う。もちろん、中にはただの嫉妬や正義中毒でせっせとチンコロに励む方もいらっしゃるのだが。

僕は比較的、心は広い方だ（自己評価）。
なので大概のことは受け入れられるので、よほどのことでもなければ禁術は禁術として封印している。
自分が足元をすくわれないようには気をつけるが、そうした人たちの気持ちもわかるのでしたい人はすればいいと思っている。

ほとんどの人は、チンコロやチンコロをする人はクソだのなんだのと公言しているが、実際にはそれは自身や仲間がヤられないためのけん制でしかなかったりする。普段そんなことを言いながらも、ひとたび自分たちにとって目障りな人間が現れようものなら平気でチンコロもするし、誰もそれを咎めたりしない。
むしろよくやったとさえなる。
つまり、この禁術魔法の正確な実態としては、「俺たちをチンコロするのは許さないけど、俺たちが俺たち以外をチンコロするのは全然OKなんだぜ」という、なんとも都合のいい禁術魔法ということだ。

令和６年２月２０日

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