転生する前は『受刑者』だった件 Vol.7

こんにちは。もしくはチョコください、みなさん。フレイム・アルケミストLv=1だ。 
先日、ついに免許皆伝を果たし、見習いから正式にフレイム・アルケミストにクラスチェンジすることに成功した。
半年はかかると言われていた修業期間を3ヶ月ほどでクリアできたのは、ひとえに僕の努力の賜物だろう(謙遜って何?)。 


とは言え、まだ一番初歩的な製品を作れるようになったに過ぎず、道のりはまだまだ遠い。
前回、プリズンライターズ・リポートのVol.4を手にした人は、表紙にサンタの入ったガラス玉がメインになっていたのを覚えているだろうか? 
あれはいわゆる「アートマーブル」などと言われるガラス製品で、そうしたものも我々アルケミストたちが練成している(もちろん、僕以外)。
表紙になっていたものは、おそらくサンタの人形をガラスに閉じ込めただけの簡単なものだと思うが、レジェンドクラスのアルケミストたちは、あの中に宇宙を創造する。
作品を目の当たりにすると思わずため息が出てしまうような代物で、一つ数万円~数十万円で取り引されているらしい。
気になる方はぜひ調べてみてほしい。 


前回、ケームショのルールやその変化について少し話したと思う。
「その国の人権レベルを知りたければ刑務所を見ればわかる」などとよく言われるが、ケームショで生活をしていると日本の人権レベルが低いと言われているゆえんもわかるなと思っていた。
だが近年、徐々にケームショ世界も人権などを重視した価値観へと少しずつアップデートされてきていることを、同じ異世界民の方々や外世界の方々、そして犯罪により被害を受けたことのある方々などはどう感じているのだろうか? 


正直、個人的にはケームショ世界はまだまだ変わる必要があると思う。
最近、移動の際の軍隊式の行進が廃止されたと言ったが、まだ指先をピンと伸せだとか前の人と足を揃えろ、隊列を崩すななどと言われるため、廃止というよりはまだ緩和と言う方が近い。 
我々に対する「さん付け」についても、話し方を敬語にするわけでもなく、しかも指導する時は呼び捨てにするというし、いまだに「お前」や「貴様」呼ばわりしてくる人もいる。
「人権的な配慮をするように」的な教育もなされているとは思うが、これからどれほど効果が現れてくるのかはまだ未知数であるなと思う。ただ、王様・貴族様方も我々を「さん付け」で呼んだ後というのは不遜な態度も取りづらいようで、急に丁寧な言い方になったりしている様子を見かけたりもする。そういうのを見ると、良くも悪くも日本人らしいなと思う。 


おそらく、ケームショは厳しくあるべきだと考える方も多くいると思う。
そこは僕も、ケームショ世界が全く制限のないゆるい世界ではダメだと思うし、ケームショには行きたくない、戻りたくはないと思うような場所でなくてはならないと思う。 

ただ、問題なのは、この世界の体質ゆえの管理・慣例・前例重視の不合理なルール、改善更生とは関係のない、むしろ逆効果なルールなどがいまだ多くあることだ。
ケームショでは、仕事場に出勤してきて同じ職場の人間と顔を合わせても、あいさつの一つもしてはいけない。
笑いかけてもいけないし目も合わせてもいけない。
自分で考え行動することも許されず、多くは言われた通りのことを言われた通りにやるしかない。
そんなことがあたり前になった人間が外の世界に出て、自分で仕事をし生活していかねばならなくなった時、果たしてどれほどの人間がうまく社会に適応できるだろうか? 


前提として、ケームショ世界にいる人間は、外の世界の人たちが望む望まざるにかかわらず、いずれほとんどの者が外の世界へ戻る。正確には、今も昔も毎日どこかで戻っている。
そしてそうした人たちがまたこちらの異世界に転生してきてしまうかどうかは、外の世界にうまくスムーズに馴染めるか、受け入れられるかにかかっている。
ただでさえ、すでに外の世界でうまく行かずにこちらの世界に来てしまった人たちなのだ。そんな人たちに外では役に立たない厳しさを植え付け、世界のギャップにショック死するようではいけない。 


いずれ野生に帰さなくてはならない鳥に必要なのは、カゴの中でバタバタと羽ばたく練習をしている者を「うるせえ」とひっぱたくような厳しさではないはずだ。
むしろ、外の世界に出たら自分の力できちんと飛び続けられるような力をつけられる環境でなくてはならない。
厳しさが必要だと言うのなら、そのための厳しさでなくてはならない。 


確かに、外の世界では役に立たない、むしろ有害なルールで人の自由や尊厳を奪われることは辛い。
そしてそれが罪を犯した者の償いだと考える人もいると思う。だが、そうやって受刑者がたくさん苦しむことによって一時の処罰感情や報復感情は満たされるかもしれないが、そうして翼をもがれたまま外に放り出された者は、また次の悲劇を生む。
いくら感情的に責めたてようと、自分の力では飛べないのだから、生きていくには人から奪うしかなくなる。
ただ厳しくするだけで人が立ち直れるのなら、とっくにこの世から犯罪は無くなっているだろう。 


この世から犯罪が無くなっていないということは、この世界のシステムにはまだ多くの問題があるということだ。一度道を外れてしまった者たちの再出発地点であるケームショ世界も、そのうちの大きな一つだろう。罪を犯した者はその罪を償う必要があるが、同時に罪を繰り返さなくて済む力も身につけなくてはならない。そのためには、この異世界が異世界と呼ばれないくらいの変化はまだ必要なのだと僕は思う。 

令和6年2月14日 

 

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