刑務所の中で理容師資格/職業訓練の思い出・2

 

本格的に暑くなってきました。皆さんいかがお過ごしでしょうか。 
今回は、理容科の職業訓練の2年目について書かせてもらいました。 

2年目は応用課程となり、実際にお客様を迎えるようになります。
出所前などの一部の受刑者、拘置区の未決囚、また、有志の職員さんや外部からのお客様を迎えるようになるので、その為のカット技術やパーマ・カラーリングを学びます。 

受刑者はミディアム、未決囚はバリカンでの簡単なカットなのですが、本番は職員さんと外部のお客様です。
どういうヘアスタイルにしたいのか、カウンセリングしながらのカット&パーマになるので、難易度も一気に上がりますが、その分やり甲斐もあります。 
カットの後に「ありがとう」と言われると本当に嬉しくて、私も「ありがとうございました」と心からの言葉が素直に出ますし、次はもっとお客様のイメージに応えられるようにと、一層力が入りました。 


また、2年目は9月頃に他施設より訓練生を迎えて技能大会があり、理容だけではなく、建築・内装・溶接・窯業などの各訓練生が日頃の成果を競います。 理容の競技内容は、制限時間内にウィッグをミディアムにカットして、整髪料でセットするのですが、各施設ごとにカットの順番や技術が違うようで、勉強になりました。 

ちなみに、私はセットでミスして銀賞でした。 
しかし、これはミスというより私の横着が原因で、やるべきことはちゃんとやらないと駄目だなとつくづく身に沁みました。 
そして、大会が終われば、いよいよ試験に向けて本格的に取り組み始めます。
学科は過去問題のテスト、実技は本番と同じ条件でのカットを何度も何度も繰り返します。 


2年という訓練期間からも分かるように、難易度は高めですが、一般の専門学校と違い、衣食住を気にせず、訓練のみに集中できるので、ほとんどの人が合格できます。 
また、訓練中に希望者は危険物取扱者と消防設備士の資格にも挑戦できますし、後は自分次第です。
どんな思いで訓練に申し込んだのかが試されます。 


問題は人間関係ですね。1年目は雑居ということもあり、揉め事も起きやすく、私の代は2人が退場となりました。 
学び多き2年でしたが、一番学べたというか変わったと思うのは、職員さんの見方です。 
いつもは厳しい職員さんも、カット中は普通に接してくれて、時には笑顔もあり、いつもの厳しさは「刑務官」としての顔なのだなと。 
外からのお客様も元職員の方が多く、本当に感謝しかありません。
それだけの信頼を築いてきてくれた先輩方にも感謝です。 


考えてもみてください。厳しく取り締まっている受刑者、それも鋏や剃刀を持っている受刑者に背を見せて座るのですよ。
自分だったらと考えると、そのありがたさはもう・・・言葉にできません。 

信頼・信用はこうして築かれるんだなと、そして、「ありがとう」という一言はこんなにも満たしてくれるんだと実感する日々でした。 
この2年で学んだことは、今の私に確実に根付き、支えてくれています。
まだまだ先の見えない獄の日々ですが、将来をしっかりイメージし、うまくいかない時こそ落ち着いて、一回一回、一つ一つを地道に積み重ねていきます。 

それでは、これで職業訓練の感想を終わらせてもらいます。
2回に分かれましたが、ここまで読んでくださった方にはありがとうございました。 

これからどんどん暑くなりますが、熱中症には気をつけながらもこの夏を楽しまれますよう祈っています。 

 

<俳句> 

・ 父の日やついには父となれぬ身を 

・ 初デートらしき二人と梅雨のカフェ 

・ 三匹の子猫みっしり金魚玉 

・ サボテンの棘のやさしき影や夕 

・ 舟虫といふ生き方もありにけり 

 

<短歌> 

・ 黙々と畑耕し缶ビール一本に笑む

        父の背大(ひろ)し 

・ 整然と並ぶ早苗の青々と

        梅雨の晴れ間を深呼吸せり 

・ 悩ましき蛙の合唱絶え久し

        塀の外はや二十四年過ぐ 

・ 気がつけば四十路も半ば過ぎており

        夏うぐいすの声は伸びやか 

・ どこまでもビル建ち並ぶ東京よ

        人も大地も窒息しさう 

2024年6月16日



A360さんの投稿

 
 

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