本と宇宙人になったカエル・書評 Vol.6「ザリガニの鳴くところ」

こんにちは!歳をとればとる程、時の流れが早く感じると言いますが、今年、令和4年は特に1年が〝アッ〟と言う間に感じました。〝歳なんだな!〟と片付けてしまえば早いのですが逮捕されてから自分の中の〝時〟が止まっているだけに今ひとつ、すんなりと歳だと認めたくない自分がいることも事実です。 

 でも理由は他にもあるのです。ひとつは社会と同じではあるものの、〝刑務所〟という異空間での〝コロナ禍〟だと思います。私が務めている刑務所では1人でもコロナ感染者が確認されると、ただちに仕事が中止となり工場を閉鎖して舎房(部屋)での軟禁生活が始まります。ただでさえ自由のない刑務所で、より不自由な生活となる為ストレスは溜まりますが軟禁されているかわり、仕事はなく1日中舎房の中で勉強したり本を読んだりしていられます。感染状況によって1週間~3週間にもなり酷い時は、その間、食事は非常食で選択、入浴も出来ないことも。(この冬の中、水で拭身下着のみ手洗い)そんな生活を今年は何度も送ったことでなぜか1か月。1年が早く感じています。 

 どうしてコロナが刑務所に入ってくるかはわかりますよネ?もちろん、悪いことをしたからではありません。全部、刑務官が運んで来ます。以前は感染者が出た時だけシールドやマスクを2重にするなどの感染対策をする〝岸田政権〟により後手後手の対応にかなりイラっと来ていたものですが、刑務所のフィルターが機能していないおかげで少々不自由ですが勉学に読書し放題の日々を送れる今は逆に感謝し、最近は全国で感染者が増加しても世間がコロナを軽く考えるようになってしまい自然と刑務所の感染率が大幅に上がってしまったことで少し労う気持ちも生まれています。社会では、そこら中にコロナがウヨウヨしているのに感染して仕事に来てしまえば、ここは何にしても時代に遅れた場所ですので、その感染者(職員)のせいでまるで中国のようなロックダウンが始まってしまうのですからネ。しかも上下関係の厳しい体育会系の男社会ですので大変だろうと思います。パワハラって言葉は普通通用しないところですから。(笑)そんなコロナ軟禁という大型連休を、ひと月置きに繰り返していたことで本が沢山読めて1年あっと言う間に感じました。 

 ふたつ目の理由は単純です。毎年10月ごろから刑務所ではみんなが一番楽しみにしているであろう正月が近くなることで逆に時が長く感じるのですが今年は個人的に興味のある〝サッカーW杯カタール大会〟が11月から始まり、気が付けば令和4年も残すところ後僅かとなっていました。時差の関係でほとんどの試合は見ることが出来ませんが、ハイライト(TV)や新聞などで結果を見て一喜一憂。自由があってもなくても楽しみを見つけることって大事だなって、つくづく感じました。 

 楽しみと言えば、ちょうど、この時期、今年出版されたミステリーなどのランキングが隠しで発表されますネ。書評や出版に関わる人の様にたくさんの新刊を読んでいるわけじゃないので、どちらかと言うと、これから読みたい本探しの意味合いの方が大きいですが、それでも自分が読んで〝おもしろい〟と感じた本や〝これが一番〟と思えた本が載っていた時は嬉しく、何だか答え合わせ(一年一度の)しているようです。 

 さて、コロナ軟禁のおかげで筆がすすんでしまいました。今回は『ザリガニの鳴くところ』という物語を紹介します。ジャンルが違えば少し順位も変わりますが、近年読んだ作品の中で間違いなく5本の指に入ります。 


「 ザリガニの鳴くところ」ディーリア・オーエンズ 

 

 ノース・カロライナの沼地に、僅か6歳で家族に見捨てられ、世間からは〝湿地の少女〟と蔑まれながらも、大西洋岸の墓場と呼ばれる広大な湿地の中で独り、動植物と強くけなげに生きて来た少女カイアの物語だ。 

 何かに追われたり、臑に傷を持つ者が移り住んでいるとされる沼地で、カイアは5人兄弟の末っ子として6歳になるまで家族とともに暮らしていたが、戦場のトラウマから酒に溺れる父の暴力に耐えきれず、母は外出したきり帰らず、兄も姉もいつの間にか姿を消してしまう。 

 大自然の湿地に建つ小屋に残された父とカイア。一時は父にも変化は見えたが、やがて父からも置き去りにされることとなるのだ。 

 6歳の少女が、毎日耳を澄ませて家族が帰って来るのを信じて足音を聞き逃すまいと必死に孤独と闘いながら待つ姿を想像できるだろうか。母を真似て食事や洗濯もしてみるが、結局何もできずに毎日カブの葉ばかり食べていたり、読めない本を開き、読んでいるふりをしたり、寂しくなれば兄とやった海賊ごっこを独りでしてみたり、カモメや月と話したり、きっと誰もが彼女の言動に心を奪われるだろう。 

 しかしカイアの立場になれば、とても淋しく辛いことなのに、つい笑えてしまえる可愛らしさがとてもいい。 

 〝捨てる神あれば拾う神あり〟孤独に押し潰されることなどなく、カイアは父が残していったボートに乗ってあたりを探索し始めたことで、洋服や食料などを助けてくれる燃料店の黒人店主ジャンピンや、文字の読み書きを教えてくれる少年ティトとの運命的な出会いがあり、彼らに見守られながら、動植物や湿地の知識、そして絵画の才能も開花させ大人の女性へと成長していく。 

 そんなカイアに、火の見櫓から転落死した、近隣の村に住む裕福な青年チェイス殺害の容疑がかかる。チェイスと彼女の関係は・・・・。本当に彼女が犯人なのか・・・・・・。 

 本作は世界中でベストセラーとなり、日本でも〝本屋大賞〟やベストミステリー隠しに上位ランキングされ、今再び映画化となり話題をさらっている。ミステリーとしてではなく、カイアの成長譚としてだけでも秀逸で、動物行動学の博士号を持つ作者だけに、さまざまな知識やエッセンスが鏤められている。〝何故、親鳥は傷ついた子を捨てるのか〟などカイア自身に自然の営みや遺伝子の法則の中から見出させていく心理や自然描写が素晴らしく、物語の核にもなっている。 

 またミステリーとしても充分面白く、カイアに共感しているだけにページをめくるたび、予定調和は裏切ってくれと願っているが最後の最後で〝そう来るか!〟と平伏したい思いだった。 

 個人的にもだいぶ感情移入したベストミステリーで是非皆に、読んで欲しい。 

 

■「 ザリガニの鳴くところ」ディーリア・オーエンズ(ハヤカワ書房)
【2021年本屋大賞 翻訳小説部門 第1位】
単行本定価 2090円
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A99さんの投稿

 

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