本と宇宙人になったカエル・書評 Vol.4「そしてバトンは渡された」

こんにちは!暑いですネ。刑務所の中は地獄です。舎房にいても工場で仕事をしていてもサウナ状態。今は、小・中・高の学校にも冷房が付いていると言うのに…。今日なども6月だと言うのに群馬などで40℃以上。全国各地で猛暑日となり、熱中症アラートが発令されているのに刑務所は休日には何があっても知らんふりです。慣性の法則が働いて、変化に対応出来ない所ですしネ。無料天然サウナは苦しい! 

 前回〝図書館に行きたい〟なんてことを書きましたが、図書館の中の冷房が妬ましいな。実は、刑務所に図書館はないですが、かなりの量の本を所蔵しているんです。ただ図書館の様に毎月?毎週?新刊を増冊しているわけではないので、古い本ばかりになります。それでも、年に1度位は、どこかから安く仕入れて本を入れ替えてはいるみたい。この様な刑務所の本のことを〝官本〟と言います。また官本の中には、どこかの学校や図書館から寄付されて来たであろう本もあります。(本の中に〇〇図書館などと書いてあったり、カバーが全面シールされていたりしている) 

 その様な官本が各工場に300~400冊位ずつ回って来て、それを工場の食堂内に備えつけ、休憩時間などを利用して1人2~3冊借りることが出来ます。勿論、刑務所によって違いは当然ありますがどこもこんな所じゃないかと思う。また、2~3ヶ月すると他の工場にあった本が回って来て、各工場の官本が総入替されます。ですのでざっと計算しても各工場の数+懲罰センターや病棟×300~400+αですので、多分、1万冊は所蔵しているのではないでしょうか。結構綺麗な物もあればボロボロ、クタクタな物もあります。もう文庫化されて30~40年以上経つ単行本がある程ですから。レアな本もありますヨ。こんなの誰が読むの?ってのも沢山ありますが、基本、歴史やミステリーや文学小説が多く、昔人気があったものも結構あり、官本が交換されると比較的新しい本や人気作家の小説はすぐ貸し出されます。 

 ただ…ここは図書館ではなく刑務所なんですよ。勿論社会にも変人は多いですが、やはり刑務所なのだと実感させられる事があり、刑務所の受刑者の一部の馬鹿者が本を汚損、落書きするんです。しかも「しょーもなっ!」と言いたくなるものばかりでミステリーなどには「この人が犯人」と落書きされてネタバレとなり、クライマックスなどは破り捨てられてたり、漫画なんかは、格好いい主人公が最初から最後までアホみたいな顔にされ、女の人などは決まって裸(服を着てても)の絵になってたり、もう「子供か!」って叫びたくなります。(笑) 

 一番嫌なのは鼻毛ですかね。もう、すっごい数の鼻毛が、びっしり貼りついてることもあります。本当腹立ちますが一度だけ、すごい鼻毛に感心したことがあります。鼻毛で字にしてたりって事もあるんですが今でも忘れません、〝課長島耕作〟という漫画の中の島耕作が、鼻毛で仙人みたいな髭面になってるんですヨ。(笑) 

 勿論、ごく一部の本であり、殆どは古いけど読むには問題ないんですけどね。昔は受刑者が購入・差し入れされた本が廃棄されると、それが官本になったりしてたので、いい本が沢山ありましたが今は、どこも、そういうことが出来なくなり、廃棄すれば(大量に)新聞同様、金になるものが逆にお金を出して処分してるんです。刑務所も社会同様、住み辛くなってますよ。本ぐらい好きな時、好きなものを読みたいですよね。官本だってコンピューターで管理すればもっと効率よく貸与出来るのに、懲役のことだからって面倒がってやんないんです。本当、刑務所は嫌ですが仕方ないですね。反省します。 

 では今回は〝そしてバトンは渡された〟を紹介します。  


 「そしてバトンは渡された」瀬尾まいこ

 

 幼い頃に母親を交通事故で亡くし、17歳になるまでに7回も家族の形態が変わる事となった主人公・優子の数奇な運命を描いた物語〝そしてバトンは渡された〟。 

 本作は、2019年の本屋大賞を受賞し既に文庫化され、昨年には永野芽郁が主演となり、映画でも話題を呼んだことで一度は耳にしたことがあるのではないだろうか。 

 題名にある〝バトン〟は優子を意味し、大人の都合によってリレーの如く血の繋がりのない親から親へと渡り歩かなければならない物語だ。 

 これは間違いなく艱難辛苦、御涙頂戴の悲しい物語だろうと涙腺が崩壊する覚悟で読み始めたのだが、冒頭から〝全然不幸ではない〟ことに優子は困っており些か調子が狂ってしまう。彼女の境遇を考えれば少なからず〝不遇〟や〝差別〟〝貧困〟や〝苦労〟といった先入観に囚われてもおかしくはないのだが、そんな心配は全く必要ない上、ページを捲るたび、ほっこりと心が暖かくなってくる。勿論、角度を変えて見てしまえば〝血の繋がり〟=本当の家族(親)に疑問を感じるかもしれない。親と一緒に暮らせない子供が淋しくない訳がない。しかし、だからこそ優子を取り巻くそれぞれの大人が、不器用でも自分の人生は二の次とそれぞれの形で優子に寄り添っているのだ。 

 物語は、高校生の優子と20歳しか年の離れていない最後の父親となる森宮と、毎日2人で友達の如く食卓を囲みながら、過去、現在、そして未来へと進む。一流企業に勤めながら、父親業にも余念がない森宮と優子の食卓での会話がこの作品の大事なところだ。食事は毎日食べる。いわば〝繋ぐ〟食事によって会話や家族としての繋がりが見えてくることを教えてくれている。 

 一日一日を大事に繋ぎ、幸せに育った優子にも、家族を持つ日がやって来るのだが…。この愛情あふれる家族からの感動の物語というバトンを、是非あなたも受け取って見て欲しい。 

 

■「そしてバトンは渡された」瀬尾まいこ
文藝春秋 定価 814円
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A99さんの過去の投稿 :
本と宇宙人になったカエル・書評 Vol.3「自由研究には向かない殺人」
本と宇宙人になったカエル・書評 Vol.2「あなたを愛してから」
本と宇宙人になったカエル・書評 Vol.1「生か死か」

 

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