オレたち今日も塀の中Vol.11/ブラックカルチャーと

Fuxk The Prison 
「ラップはゲットーにおけるCNNだ」と言ったのは、パブリック・エネミーのリーダーであるチャック・D。
そして、「ラップはこれまで決してブラック・アメリカが所有することができなかった、見えないTV局のようなもの」とも。 

この発言から約30年が経ち、ジョージ・フロイド殺害事件と後のB.L.Mブラック・ライヴズ・マター運動の高まり、SNSを通じた素早く克明な発信、社会的構造の中に組み込まれたレイシズムが浮き出てきて、長い歴史の中、アメリカ黒人たちが直面し苦しんできた社会の不公平さを世界中の人々が、塀の中の人間にまでも改めて知る機会となった。 
「Fuck The Police」と訴え、もうひとつのアメリカを伝え前線に立つラッパーたち。 
人種や差別の度合いは違えど、黒人の米国刑務所制度における不平等性や、日本での刑務所、受刑者という立場における、色々様々な不条理、困難、差別、事件の数々の歴史において、共感する点は多い。 

で、私は思う。 
「プリズンライターズ・リポート(※受刑者に配布しているプリズンライターズの投稿をまとめた冊子・以下P.W.R)は、刑務所におけるCNNだ」と。 
P.W.Rに投稿するPJ会員達は中の情報、リアルな受刑生活、官の報復に合うかもしれない内容も、カニエ・ウェストさながら長い沈黙を破り、同胞へ呼びかけ、自身の経験を元にP.W.Rを通じて訴える。 
P.W.Rは全国の受刑者が長年待ち望んでいたことで、個人的に法律専門家や刑事司法制度の中でも何かほんの小さくとも変化があればと、思う。 

名古屋刑務所での受刑者虐待、暴力に苦しんできた現実がついに前面に出たけど、実は何も新しいことじゃない。 
適切な医療を受けられず、放置されて死んだ受刑者はたくさん居る。懲罰だって看守の胸先三寸。 
絶対完全無罪でも、疑わしくも、疑わしくなくも、反則調査を仕立て上げ、若手や新人刑務官の上司への点数稼ぎに受刑者が犠牲になる。 
社会で罪を犯して裁判を経て収監されるのはわかる。
でも収監され、受刑者という立場になったからといって、完全にダメになったワケじゃないし、「娑婆の常識、非常識」「はい、すみません、この2つ意外にお前らの言葉はない」と教え込まれて、まるで黒人奴隷制度。 
フランスのある政治学者は、「その国の自由度を知りたいなら、その国の刑務所を見ることだ。
最低限の人権環境の中、少しの自由もなければ、その国に大きな自由はない」と言った。 
長期受刑者の立場・視点でいうと、色えんぴつすら使えず、絵も描けず、社会で待つ友人とも面会が出来ず、一般人であるのにも関わらず、「反社・組関係者」と扱われて、何の証拠・事実もなく禁止者となり、関係を切り離されて、孤独化する。 
何の自由もなく希望の灯も消され、孤独になれば暴力と犯罪の温床である刑務所では、気の合う仲間を見つけて次こそ完全犯罪と、アレコレ犯罪談義に花が咲く。 

ドナルド・トランプは、黒人有権者に向かって、こう言った。 
「貧困に喘ぎ、学校も仕事もダメなあなた達。これ以上、何を失うんだ?」 
数多くの刑務官がこれと似た言葉を吐いてきた。 

「息ができない」と訴えながら警官に命を奪われた、ジョージ・フロイド。 
「病院に連れて行って」と訴えながら放置され刑務官に見殺しにされた多くの受刑者。 
人の死に何の違いがあるんだろう? 

身体拘束、強制労働の奴隷制を引き継いでいる刑務所。社会のゴミ箱。
時間がかかるのは分かるけど、私には命が1つしかないので、この一生の内に変化を見たいと思う。 

アフリカン・アメリカン文化を愛する上、HIP HOPなくして生きていけなくなった私から最後に、ブラック・カルチャーの愉しみを教えてくれる本をご紹介。 

(1)『アメリカの奴隷制を生きる~フレデリック・ダグラス自伝~』 フレデリック・ダグラス / 彩流社 
(2)『ある奴隷少女に起こった出来事』  ハリエット・アン・ジェイコブス / 新潮文庫 
(3)『ビール・ストリートの恋人たち』  ジェイムズ・ボールドウィン / 早川書房 
(4)『ヒップ~アメリカにおけるかっこよさの系譜学~』  ジョン・リーランド / スペースシャワー・ネットワーク 
(5)『ただの黒人であることの重み~ニール・ホール詩集~』  ニール・ホール / 彩流社 
(6)『ギャングスターラップの歴史』  ソーレン・ベイカー / DU BOOKS 
(7)『ザ・ヘイト・ユー・ギヴ』  アンジー・トーマス / 岩崎書店
 

 いつも、「オレたち今日も堀の中~」シリーズでしたが、たまーに番外編でこういうことも投稿していこうと思います。 読者が居たら…。(笑) 
コメント、本の寄付大歓迎。ではこれにて看板。 

 ~プリズン・ギャラリーも投稿しています。是非見て下さい。 
絵に正解や不正解はありません。PJ会員の皆さん、どうか思うまま、自由に絵を描いてプリズン・ギャラリーを続けてゆけるように、協力してください。 
読者の皆さん、プリズン・ギャラリーが今後も続き、受刑者ならではの特別な世界の中で生まれる芸術、規則だらけの中で描くプリズン・アートを1人でも多くの人の目に、心に届け、1人でも多くの受刑者の更生支援とつながるように、活動支援をよろしくお願いします。 

 

令和6年9月8日 

 

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