刑務所で父を思い出す

小学校へ入学する以前。大工だった父に、加工場兼事務所へ一緒に連れて行ってもらっていました。 
お昼御飯は店屋物を取る事が多く、その日も、いつも頼むおそば屋で出前を取りました。 
父がかつ丼にしたので、わたしも同じかつ丼を頼みました。 

当時の私は食べ物の食べられない物が、もの凄く多くて、かつ丼を頼みましたが、豚肉と玉ねぎとグリーンピースが食べられないため、届いたかつ丼を食べ始める準備として、どんぶりの蓋を開けて手の届く所に置いて、その蓋の内に、4,5粒まぶして乗せられているグリーンピースを取り置いて、ラストは、玉子でとじられているとんかつを豚肉と揚げた衣とに分解して豚肉だけを取り置いて。やっと食べる準備の完了です。 

取り置かれた物が乗る蓋の上には、衣を取られた豚肉・玉ねぎ・グリーンピースが残念な感じで乗せられています。
もはや原形を留めない、私オリジナルの衣玉子とじ丼を食べ始めて、食べ進めつつ取りこぼしの玉ねぎを、割箸で「ピッッ!」と弾き捨てていると、かつ丼を食べ終えた父が丼を片付けました。
かつ丼が入っていた丼は、白色に青色の波の模様が入っているどんぶりと蓋がセットの物です。
父が片付け蓋を被せて置かれている物の、蓋のくぼみ部分にグリーンピースが4粒程乗せられています。
いつでもかつ丼を頼む訳でははいのですが、父がかつ丼を頼んだ時は、いつも蓋のくぼみにキレイにグリーンピースが乗せられます。
その日、私は「なんで、グリーンピースが乗ってるの?」と不思議に思っていたことを、父へ質問してみました。
私に質問された父は、私よりも子供っぽい仕草で「こんなもの食うもんじゃねェ~」と笑いながら答えました。
笑いながら今度は父が「なんで食べないものをそこへ乗せてんだ?」と私へ質問してきました。
私は、さっきの父の仕草と顔をマネして、「こんなもん食うもんじゃねェ~」と言ってみました。
私の言葉を聞いた父は、さっきよりも良い笑顔、やさしい笑顔で、「そっか!」「じゃ~しょうがねェ~」と笑ってくれました。 


私の父はすでに亡くなっています。 
私は犯罪者となって受刑生活を過ごしているうちに、どんどん父の事も思い出すことが減ってきています。 
小さな頃は父の事が大好きでいつでも側に居たかったのに。 
とても薄情な私です。素の私は今の私なのだと思う。 だから、今、ここに居ます。 

2025年7年2月3日

 

※上記ボタンをクリックすると決済ページへ移動します。決済方法に関してはこちらをご確認ください。

※メールでいただきましたコメントは公開いたしません。

Previous
Previous

暴力をふるった親を恨み、恋しいとも思う

Next
Next

刑務所より俳句と短歌 Vol.6 (つぶやき付き)