私の出所計画
齢、半世紀を数え、その約半分の人生を中で過ごす無期囚です。受刑期間が長くなったからか、それとも年齢を重ねたからか、年々事件のことを振り返るようになりましたし、とにかく、しっかり生き直してみたいと思うようになりました。
受刑者は、よく出てからのことを同衆とも話題に上げます。勿論私もそんな雑談に加わることがありますが、私の場合は、その前の大きな課題、出るために何が出来るかを具体的に考える必要があります。
私は、母と祖母が書家だったことから、幼い頃より墨が身近にありまして、いつしか私も書を嗜むようになっていました。一応、2つの団体から教場を開く資格を得ていて、おおよそ犯罪とは真逆で、クリーンなイメージの書道に携わることを生活基盤にする一案にしています。けれども、私が大罪人と分かり、それでも教えを乞いたいと思ってくださる方が果たしてどれだけいるだろうかと、思案を机上から降ろしますと、甚だ心もとなさを感じます。ならばいっそのこと、服役中から塀の中の書道家として活動をして、作品を世に出していくことで、少しずつでも認知をしてもらえる努力をしようと考えるようになりました。
その活動としましては、まず年に何度かは、公募の書道展へ出品しています。今の私の実力は、出せば大体入賞はするけども、大賞には届かない、例えるなら準決勝敗退レベルといったところでしょうか。最近ですと、アカデミーが主催する国際書道展へ、あいみょんの「猫」の一節を用いた作品で金賞を獲りました。”国際”と銘打たれているだけあって、世界各国からの応募がありました。書道は多級や囲碁界とそのピラミッドの図式が似ています。頂点から上位には、漢字の本場中国勢が占めていて、その下にはアジア勢が。欧米諸国にも携わる人口は分布しているものの、やはり墨も筆も身近ではなく、名を馳せる書家は多くいません。今回私は、かな交じりの作品でしたので、中国勢が出す漢詩とは部門が分かれていれば、ジャンルが異なります。比較しにくい戦略をとったのも受賞要因のひとつと言えます。この書道展では金賞はトップ賞ではなく、上から3つ目に区分されます。それでも私には予想を上回る結果でした。なので次は、漢詩の作品で中国勢に真っ向勝負を挑んでみます。まぁ、ひとつ下の銀賞なら上々。もし金賞に滑り込めたら、快挙の連続です。
少し余談になりますが、書道展は主催する協会や審査をする面々によって好まれる作風が分かれます。平たく例えますと、ラーメンに種類や味が豊富にあるのと同じで傾向と対策が必要となります。単に自分がしたい表現を創作するのであれば、それは個展向けの作品ということです。つまり、同じ作品をそれぞれに出品したとしても結果が全く変わってくるため、したい表現と好まれる所の結び付けが実績作りには大切になります。
又、書道界には悪しき慣例も存在します。書道展で度々入選を果たすほどになりますと、審査員から特別な添削指導を受けられ、めでたく入賞。いわゆる”お墨付き”というヤツです。そして入賞が続きますと今度は、目を養うためにと大御所の作品を一幅勧められることがあります。日展など超メジャーなところで入賞するには、作品を買わせていただくなど家一軒分ほどのお金がかかると言われています。「日展、特選書家」のネームバリューがあれば、あとから十分回収できるでしょ?ということなのでしょう。実は私も日展ほどメジャーなところではありませんが、このお声をかけられたことがあります。慣例があるとわかってからは、自分の実力が知れて、悪い気はしませんでしたけど、それまでは、新手の詐欺を疑ってました。
少し話が逸脱しましたが、公募の嫌な側面を見てしまってからは、実績づくりの手段を考え直す必要に迫られました。それまでは年に数にして、多い時は5〜6ヵ所出品していましたけれども、このところはその半分ほど。それも、私の表現が好まれそうなところや、公正そうなアカデミーが主催する所を選んで出すようにしています。
また、今度は海外の美術賞展にチャレンジをしてみたいとも考えています。これまでに、大家と呼ばれる先生方も、スペインやフランスへ出品なさり、キャリアを積んでこられたと知り、私もそこを目標のひとつに据えました。とは言え、塀の中からの出品は、思いの外にハードルが高いのです。まず、エントリーシートや応募要項が、そこの自国語です。作品の輸送や会場への搬入 etc. 費用も手間もすごくかかる気がします。それでも必ず、出来るはずなので、まずはそれらを比較しようと思って、少し前にPJスタッフの庄子さんに検索の依頼もしています。出品には当然、それに適したフレームも必要です。書作品専門の素晴らしい額装をしてくださる業者さんとも契約することができました。
娑婆にいれば、こういった準備や手続きは、サクサク進められるでしょうが、今はそのままならないことも楽しみながら取り組んでいます。
近い将来、必ず出品します。そして何回かの内に賞も獲ります。
最近、私の筆文字を活かしたオリジナルグッズを作ることになりました。まずはTシャツ etc の衣類から。デザイン性を重視するため、書作品のそれとはまた少し違い、かなり遊び心を加えています。例えば、「驚」の下の点をSurpriseにしたり、「躍」のヨをDに見立てDanceも付けるなど、アルファベットと融合したデザインをシリーズ化したラインナップにしました。まだ、十数点ですが、これからトートバックやマスクなどグッズの種類も充実させていくつもりです。
あとはいくつかのお店に作品を飾っていただいています。
元々商業的な活動はこれが始まりでした。それをご覧下さった方にお譲りしたり、書風をお気に召して下さった方から御注文を賜ったり。これまでには、座右の銘やお好きな歌詞での依頼や、子供が生まれた時に枕元に貼る命名の紙、表札や看板の原案も手がけさせてもらったことがあります。今は、とある不動産の方から、ご自身が大切になさっている言葉をスタッフの目にも止まるようにと、社訓のようにオフィスに飾れる作品の御依頼をいただいたので、仕上げています。ひとつの作品を書き上げるまでには、何百枚もの書き込みをし、かなりの日数を要しますが、そのことだけに集中できる時間はある意味至福のひと時でもあります。
仕上がった時の充実感。お渡しした喜びの共有。中にいても社会とのつながりは持てています。そして、こういった活動で少しずつですが、収益が得られるようになりました。これを次の活動資金に回し、残りを被害弁済に充てるつもりです。
大罪人ではあっても、生き直していることが世の中に認めてもらえたら、もしかすると出所へ向けた外側の環境が整うのかも知れません。「活動→実績づくり→収益→弁済」これが私の出所計画の取り組みです。
(もし私の活動に御賛同をいただける方がいらっしゃいましたら、コメントをお寄せください。可能であれば、直接お返事をさせていただきます。)
7/28発
※下記いずれもA115さんの書より