称呼番号1483番

※ A028さんは2022年4月に出所されました。
出所前に受刑生活を振り返っていただきました。

 

 私が1483番と呼ばれるようになって8年10ヶ月が経とうとしている。 

入所当時の私は、刑務所は違えど3度目の受刑であるから刑務所がどのような場所か理解しているつもりでいたが、刑務所によってこれ程の差があろうとは思っておらず、受刑生活に順応することだけで精一杯だった。
まず始めに覚えなくてはならないこと、それは刑務所が定める規則である。その中に遵守事項なるものがあるが、これは覚えるまでもない。
逃亡してはならない、自殺をしてはならない、不正連絡をしてはならない、危険物を製作してはならない、暴行・けんか・わいせつ行為・反抗など考えなくても理解できるものだからである。
一方、意識していなければ無自覚のまま犯してしまう規則違反もある。
その大半は整頓要領や日用品などの使用に関することである。
置き方、置く場所、使用方法、使用個数などが細かく決められていて、注意指導の対象となる。
その注意指導というのが曲者で厳格さが刑務官によって異なる。
従って、それまで何も言われなかったことである日、突然、注意指導を受けるということが起こる。
最初は、弁解したり詳しい説明を求めたりしたが、やがて無意味だと気付き素直に従うと決めた。
なぜなら、厳格な刑務官である程、非を認めないからである。刑務官も人である以上、見間違いや思い違いはある。その場合でも彼等は、疑われるようなことをする方が悪いという論法で強行突破する。こんな者を相手に何十分も浪費する位なら本を読んだり手紙を書く時間に使った方が余程、有意義であろう。 

 そして、もう一つ覚えなくてはならないルールがある。いわゆる懲役ルールと呼ばれるものである。その中で一番身近なのが共同室でのルール。
これは仕切る人間によって変わる。だから当たり外れがある。例えばトイレ掃除は新入受刑者がするというルールがあるとすると次に新入受刑者が来る日まで毎日トイレ掃除をしなければならない。
しかし、これだけなら、まだマシな方で酷い部屋では部屋の雑事全部を押し付けられた上、古株受刑者の布団の上げ降ろしまでさせられる。
更に、甘シャリと呼ばれるデザート系のおかずや祝祭日に出るお菓子まで献上しなければならないこともある。
しかも、この懲役ルールは仕切る人間とその取り巻きの気分次第でどうとでもなってしまう。
その為、いじめ、けんか、就業拒否などの温床となってしまっている。
この他、工場での作業や人間関係にも慣れなくてはならず、様々な面で苦労をした。嫌なことも多かったが、今思えば必要なことだったとも感じる。 

 そのような環境で更生の道を諦めず過ごして来れたのは、支えてくれた人達がいてくれたおかげである。
正直に白状すると今回の受刑生活の中で何度かお誘いを受けたことがある。
暴力団への加入、薬物の運び屋・売人などであったが、いずれも断った。
単純にトカゲの尻尾になりたくないということもあったが、何より大きかったのは、ある人との死別であった。
その人は大学教授でありながら受刑者支援もしていた。
出会いのきっかけは、彼の著書を読んで私が出した一通の手紙であった。
決してファンレターではない。本の感想から始まって、犯行動機、過去、不安、葛藤など思い付くままに書いたまとまりのない手紙である。
返事が来ることも期待はしていなかった。しかし、返事は来た。しかも、彼は私に「更生しましょう。〇〇さん!!伴走しますよ」という一生忘れられない言葉をくれた。
有難くて有難くて何度読み返したか分からない。その度に胸が高揚し涙が止められなくなる。それは今も変わらない。

しかし、文通が始まって一年半が経とうとした頃,彼に異変が起こった。手紙には、物損事故を起こしたとか感情のコントロールが利かないと書かれていた。
その頃から、意味の取れない文章が増えたり、誤字脱字が増えて、彼の身体に何かが起きているのは明白であった。やがて、大きな病気になってしまったと短い手紙が届いた。
その文字は言うことを利かなくなった手で必死に書いたと思われた。
そして、その手紙を最後に彼からの返事が届くことはなかった。
しばらくして、あるNPO法人の機関誌で彼の追悼記事を目にして、微かな希望も粉々に打ち砕かれた思いがした。しかし、彼は確かに私の中で生き続けている。
それは、これからも変わらない。そして、私の中の彼は、「更生しましょう。〇〇さん!!伴走しますよ」と私を励まし続けてくれるはずである。 

 この出来事があって以来、更生という希望の光に確かな手触りを感じている。
理想や夢物語ではない現実的な目標である。だから、ギャンブル依存症を認めることもできた。
職業訓練も受講して出所後の就職に役立つ資格も取った。
色々な人とつながりを持って生きて行く楽しさを知ることもできた。そのことによって自分の人生に向き合っていなかったことを突き付けられた気がした。
私にとって自分の人生に向き合うことが更生の第一歩だと思う。そして、罪を背負って幸せになる道を歩みたい。私を信じてくれた彼と今も信じてくれている人達に胸を張って語れる毎日を送って行く。 

1483は、私にとってラッキーナンバーなのかもしれない。 

 

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